法話 菩薩さまの心

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法話集

「衆生無辺誓願度」これは、『四弘誓願文』というお経の一節です。

ご法事でお唱えすることもありますので、ご存知の方も多いと思います。

仏さまになると決意した菩薩が共通して持つ、四つの誓願の一番目です。

この世界で悩み苦しんでいる人は数限りないけれども、誓ってその苦しみから救うことを願います。

数限りない人々の苦しみを救うという尊い誓い、大きな願いですが、このお経をお唱えする時、皆さん菩薩となった気持ちでお唱えされているのではないでしょうか。


私がおります觀音寺は、坐禅会なども行っている禅寺ですが、花の寺として地域の方に知られています。

それは、3年前に亡くなった父、先代和尚が、四季折々の花木をたくさん植えたからです。

父は心癒される花の寺にしたいという願いを30年以上の歳月をかけ実現しました。

特に6月に咲く紫陽花、11月の紅葉の季節に参拝される方が多く、それに合わせ、父と同年代の世話人さんが境内の作務をよく手伝ってくださいました。

父が亡くなり、私が住職となりましてからも、参拝者が多くなる季節には、総代さん、世話人さんが集まり、境内の作務を手伝ってくださっていました。


ところが、2年前の2月頃からコロナ禍となりました。

総代さん、世話人さんは、60代、70代の方がほとんどで、私もお手伝いをお願いするのを遠慮し、1人で頑張るしかないと頑張っておりました。

しかし、そんな私も加齢による筋力低下からか四十肩となり、痛みがひどく日常生活にも支障が出て、境内の作務も思うようにできない状態になりました。

昨年の夏、父とよく作務をしてくださった世話人さんのお宅にお盆参りにうかがった時、お経の後にこう言われました。

「和尚さん、一人で頑張ることはないけぇ。」

世話人さんは、墓参りのたびに、気になって私の様子をご覧になっていたと知りました。


その後、その世話人さんはもう1人の世話人さんに声をかけ、毎週のように境内の作務を手伝ってくださいました。

境内がみるみるきれいになり、6月のあじさい祭りには参拝者の方が境内を散策して紫陽花を観賞できるようになりました。

その他にも、紫陽花の剪定をしてくださっている総代さん世話人さん、墓地の草取り・掃き掃除をしてくださっている檀家さんもお見かけしました。

コロナ禍の中、私のことを気にかけ助けてくださったことに私は心から感謝いたしております。


『観音経』に出てくる人々を救う観音菩薩は、相手の苦しみを抜き、楽を与える菩薩さまです。

『観音経』では相手が子供であれば子供の姿となって導くと説かれています。

私たち大人も、子供と話す時には子供が安心して話せるよう、自然に子供と同じ高さで向き合い目線を合わせます。

相手が大人であっても同じ目線になって寄り添うことで相手は安心できます。

私が1人でしんどそうに作務をする姿を見て大変だと作務を手伝い寄り添ってくださった皆さんこそ、菩薩さまなのです。


コロナ禍で、人との関わりが少なくなったと感じる世の中でも、苦しんでいる人を見たら少しでも楽にしてあげたいと思う心、菩薩さまの心を私たちは皆、持っています。

多くの方に支えられ生かされていることに感謝しながら、他人事ではなく相手に寄り添った菩薩さまの心で日々を過ごしてまいりましょう。

(妙心寺「花園会」の月刊誌 令和四年十一月号原稿 觀音寺住職)

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